―何を、どう集めれば「納得できる選択」にたどり着くのか
前回、第三者の視点を得ることの大切さを書きました。
でも同時に、こうも書きました。「最終的に決めるのは自分」
では、何を基準に決めるのか。それが「自分の軸」です。
自分が一番、楽しくやりがいを持って仕事できるのはどこか。10年後に振り返ったとき、後悔しない選択は何か。
ただ、この「軸」は、頭の中で考えているだけでは見えてきません。情報を集め、比較し、試行錯誤する中で、少しずつ見えてくるものです。
今回は、自分の軸を見つけるための情報収集について書きます。

軸を見つけるための情報収集は、普通の情報収集と違う
多くの人がやりがちなのは、こんな情報収集です。
「おすすめの転職先」を探す。「成功した人の話」を読む。「失敗しない方法」を調べる。
でも、軸を見つけるための情報収集は、これとは違います。
必要なのは、「自分は何を大切にしたいのか」を明らかにする情報です。
具体的には、次のような情報です。
自分と同じ専門性を持った人が、どんな働き方をしているのか。今の環境とは違う場所で、どんな可能性があるのか。自分が違和感を感じているのは、環境なのか、役割なのか、関わり方なのか。
こうした情報を集めることで、「自分にとってのやりがい」の輪郭が見えてきます。
情報を集める3つの軸
軸を見つけるための情報収集には、3つの方向性があります。
軸1:今とは違う「環境」の情報
他の医療機関の働き方、勤務形態の違い、組織の規模や方針。
これを知ることで、「今の環境の何が合わないのか」が見えてきます。
例えば、大学病院と市中病院では、求められる役割がまったく違います。常勤と非常勤では、裁量権も責任も異なります。
こうした違いを知らないまま、「なんとなく合わない」と感じているだけでは、次の選択も曖昧になります。
軸2:今とは違う「役割」の情報
臨床以外のキャリア、マネジメント的な役割、専門性の活かし方の多様性。
これを知ることで、「自分がやりたいのは何か」が見えてきます。
医師のキャリアは、臨床だけではありません。教育、研究、行政、産業医、メディカルライター。専門性の活かし方は、想像以上に多様です。
でも、その選択肢を知らなければ、選ぶこともできません。

軸3:今とは違う「関わり方」の情報
常勤と非常勤の組み合わせ、複業という選択肢、時短勤務や働き方の調整。
これを知ることで、「変えるべきは場所ではなく、関わり方かもしれない」と気づけます。
私自身、最初は「環境を変えるしかない」と思っていました。でも情報を集める中で、「同じ環境でも、関わり方を変えれば納得できるかもしれない」と気づきました。
この気づきがなければ、無駄な転職をしていたかもしれません。
情報をどこから集めるか
では、具体的にどこから情報を集めればいいのか。4つのソースがあります。
ソース1:実際に働いている人の話
最も価値があるのは、実際にその環境で働いている人の生の声です。
同じ専門性を持つ先輩、別の環境に移った知人、SNSで発信している医師。こうした人たちの話は、求人票では絶対に分からない情報を教えてくれます。
ただし注意点があります。
その人の価値観が、自分と同じとは限りません。「うまくいった話」だけを聞いても偏ります。タイミングや状況が違う可能性もあります。
情報は参考に。でも鵜呑みにはしない。この姿勢が大切です。
ソース2:転職エージェントやキャリアアドバイザー
前回書いたように、エージェントは一つの選択肢です。
彼らが持っている情報は、市場全体の動向、求人票には載っていない実情、複数の選択肢の比較。こうした情報は、個人では集めにくいものです。
ただし、あくまで「情報源の一つ」として活用する姿勢が大切です。
彼らの提案が、必ずしも自分に合っているとは限りません。最終的に判断するのは自分。この前提を忘れないでください。

ソース3:医局や学会のネットワーク
意外と見落とされがちですが、医局や学会の人脈も貴重な情報源です。
他大学の状況、関連病院の実情、業界の動向。公式な場では聞けない話も、非公式な場では聞けることがあります。
特に、同じ専門分野の先輩は、自分の5年後、10年後の姿を見せてくれる存在です。
「あの人のようになりたい」「あの働き方は避けたい」。そうした具体的なイメージが、軸を作る材料になります。
ソース4:オンラインの情報
SNS、ブログ、掲示板なども情報源になります。
最近は、医師がSNSで働き方を発信していることも増えました。匿名掲示板には、公式には語られない本音が書かれていることもあります。
ただし、情報の質にはばらつきがあります。
匿名の情報は参考程度に。極端な意見に引っ張られない。複数の情報源で裏を取る。
この慎重さが必要です。
情報を「比較する」ことで軸が見える
集めた情報は、そのままでは意味がありません。大切なのは、比較することです。
A病院とB病院、何が違うのか。常勤と非常勤、それぞれのメリット・デメリット。今の環境と、他の選択肢の差。
こうして比較する中で、「自分が何を重視しているか」が見えてきます。
例えば、こんな気づきがあるかもしれません。
収入よりも、裁量権を重視している。安定よりも、多様な経験を求めている。組織の規模よりも、人間関係を大切にしている。
これが、「自分の軸」です。

軸は、固定されたものではない
ここで大切なことを一つ。
軸は、一度決めたら変わらないものではありません。
年齢や立場によって変わります。経験を積むことで優先順位が変わります。新しい情報で、考えが変わることもあります。
だからこそ、定期的に情報を集め、軸を見直すことが重要です。
20代で大切だったことが、30代では変わっているかもしれない。独身のときと、家族ができたときでは、優先順位が違うかもしれない。
それは、矛盾でも、ブレでもありません。成長の証です。
私が実際にやったこと
私の場合、次のような流れで情報を集めました。
ステップ1:今の違和感を言語化した
まず、記事3で書いた「3つの問い」を整理しました。
何を守るために現状を続けているのか。違和感は環境か、関わり方か。なぜ今は辞めないのか。
この整理ができていたので、集めるべき情報が明確になりました。
ステップ2:複数のソースから情報を集めた
転職エージェントに市場の動向を聞きました。先輩に、別の環境の実情を聞きました。SNSで、同じような悩みを持つ人の発信を見ました。
一つの情報源に頼らず、複数の視点を取り入れました。
ステップ3:比較して、自分の軸を見つけた
集めた情報を比較する中で、気づいたことがありました。
「自分が求めているのは、環境を変えることではなく、関わり方を変えることかもしれない」
この気づきが、その後の選択を大きく変えました。
まとめ:情報は、軸を見つけるためにある
情報収集の目的は、「正解を見つけること」ではありません。
「自分の軸を見つけること」です。
何を大切にしたいのか。どんな働き方が自分に合っているのか。何があれば、楽しくやりがいを持って働けるのか。
こうした問いに、自分なりの答えを持つこと。そのために、情報を集め、比較し、試行錯誤する。
その先に、「納得できる選択」が待っています。
専門職のキャリアは、簡単には変えられません。だからこそ、焦らず、丁寧に、自分の軸を見つけていく。
その過程そのものが、キャリアを選び直す行為なのだと思います。

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