
―現状維持バイアスと「辞める」という選択肢―
専門職として一定の経験を積むと、ふとこんな感覚に襲われることがあります。
「このままでいいのだろうか?」
大きな不満があるわけではない。辞めたいと決めたわけでもない。それでも、なぜか立ち止まってしまう。
この迷いの背景には、専門職特有の構造と、誰もが無意識に影響を受けている現状維持バイアスが関係しています。
今回は、専門職がキャリアで迷うときに陥りやすい3つのパターンを整理します。
パターン① 順調だからこそ、疑問を持てなくなる
評価されている。任される仕事が増えている。周囲からも「順調だ」と言われる。
客観的に見れば、問題はありません。
しかし、ここに現状維持バイアスが強く働きます。
現状維持バイアスとは
たとえ別の選択肢があっても、「今のままでいる方が安全だ」と感じてしまう人間の心理的傾向です。
専門職の場合、次のような要素がこのバイアスをさらに強化します。
- 積み上げてきた専門性
- 失うかもしれない評価
- 周囲の期待
その結果、どうなるか。
- 疑問を持つこと自体が「裏切り」のように感じる
- 止まる理由が見つからず、進み続けてしまう
順調であることが、考える余白を奪ってしまう。これが、最初の迷いの型です。
パターン② 役割は増えたが、選択権が増えていない
年数を重ねるにつれ、専門職には多くの役割が求められます。
現場、教育、調整、責任。
一見すると「成長」ですが、ある時、こんな違和感が生まれます。
- 決める立場ではない
- 方向性は他人が決めている
- 期待には応えているが、納得感が薄い
ここでも現状維持バイアスが働きます。
「今さら変えるのはリスクが高い」「ここまで来たのにもったいない」
そう考えて、違和感を「気のせい」にしてしまう。
しかし実際には、迷いの正体は能力不足ではなく、「選んでいない状態が続いていること」であることがほとんどです。
パターン③ 辞めるという選択肢を、最初から除外している
専門職の迷いで特徴的なのは、最初からこの前提が置かれていることです。
「辞めるのは、サラリーマンの話。専門職には当てはまらない」
でも本当にそうでしょうか。
確かに、専門職のキャリアは特殊です。簡単に横断できるものではありません。
ただ一方で、「辞めるという最強の武器は、サラリーマンだけのものでは無い」と、私は感じています。
「辞める」の本当の意味
ここで言う「辞める」とは、必ずしも即退職することではありません。
- いつでも辞められるという認識を持つ
- 選択肢として机の上に置く
- 辞めない理由を、自分で説明できる
この状態を作るだけで、キャリアの見え方は大きく変わります。
辞める選択肢を持つことは、逃げではなく、主体性を取り戻すための装置です。
3つのパターンに共通する本質
ここまでの3つに共通しているのは、次の状態です。
- 現状を続けている理由が「自分の言葉で説明できない」
- でも変える理由も、明確ではない
これは怠慢でも、甘えでもありません。構造と心理の問題です。
だからこそ、勢いで決断する必要はありません。
次に必要なのは「勇気」ではなく「整理」
キャリアで迷ったとき、よく「覚悟が足りない」と言われます。
しかし多くの場合、足りないのは覚悟ではなく、考える順番です。
辞めるか、辞めないか。
その前に、次のことを整理する必要があります。
- 自分は何を守ろうとしているのか
- 何を恐れて現状に留まっているのか
- それは今も合理的なのか
迷いのパターンが分かっただけでも、
次に何を整理すべきかが見えてきます。
問題は「決断」ではなく「情報の扱い方」です。
次回予告
次回は、「専門職がキャリアで迷ったとき、最初に考えるべき3つの問い」について述べてみようと思います。
現状維持バイアスから一歩外に出て、「選び直す」ための具体的な視点です。

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